柴田教授のひびきの放送局/Prof. Shibata's Hibikino Station

九州工業大学大学院生命体工学研究科の柴田智広教授の公式ブログです.

中村彰宏博士(富士ソフト(株))

今回はNAISTの博士前記課程・後期課程と指導し*1、今年の9月に博士号を取得した中村博士が手記を寄せてくれました。中村さんはマウスの実験経験もあり、プログラミングもできるという、なかなかいない人材で、私がNAISTでバイオサイエンス研究科の塩坂先生や中島先生(現九州大学)、また理研BRCの若菜先生らと共同研究を推進する原動力となってくれました。

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1.大学院でどんな研究をしたか
 マウスやラットなどの実験動物を対象とした、行動観察システムの開発を行いました。現在の医学・生物系の研究の多くは、マウスやラットによる動物実験によって支えられています。しかし、それらの実験で動物の四肢動作を解析する場合、透明な回し車の中で強制的に歩かせたり、毛を剃って刺青や蛍光塗料でマーキングしたりといった方法が一般的であり、動物の行動に影響を与えず、自然な四肢動作を3次元的に解析する手法というのは、私が研究を始めた2010年時点では実現していませんでした。そのため、脊髄損傷に対する再生医療など、四肢レベルの運動障害を評価するような研究においては、目視での動作解析が主流で、データ収集に手間がかかること、客観性や定量的な評価に限界があることが問題でした。
 そこで、情報系の技術と、学部時代に動物聴覚の研究をしていた経験を活かして、動物に行動の制限や恐怖心を与えず、自然な四肢動作を計測できるシステムの実現を目指して研究を始めました。「赤外線深度センサを用いて、赤外線透過フィルタを貼り付けた床の下からマウスを計測する」というハードウェアは早い段階で定まったのですが、計測対象が小すぎる、体毛で動きが隠れる、人間と違って既存のデータがほとんど無いなどの多くの困難に突き当たり、ソフトウェア面ではかなり手探りで、色々な手法を試してはうまくいかずを繰り返していました。
 最終的に、人間に対するマーカーレスモーションキャプチャ使われるような身体モデルではなく、AGEXアルゴリズムと呼ばれる3次元上の凸点を抽出するアルゴリズムにより、計測データからボトムアップに四肢末端を推定するという手法により歩行中のつま先の3次元追跡を実現し、ジャーナル論文を出版し*2、特許も出願できました。*3

 

2.今後の展望
 現在、製品に組み込まれる話も進んでいます。これまでは目視で作成していたデータが自動で作れるようになることで、関連する研究領域全体の加速や連携を促すことができると考えられます。近年注目を集める再生医療や遺伝に関する研究がより発展する助けにもしなれば嬉しい限りです。
 現状では実験動物の四肢末端の追跡だけですが、センサの発展やデータの集積により、人間における Kinectのように、手軽なマーカーレスモーションキャプチャが動物に対しても実現し得るはずです。さらに将来には、実験室に留まらず、野生の希少生物の保護、害獣の制御など、人と自然の共存へも応用していけるのではと期待しています。

 

3.九工大の卒研生や院生へのメッセージ
 「食べる」「寝る」「話す」を大事にして下さい。研究というのは、「今まで誰も実現できなかったことを、自分が実現してやろう」というものなので、まず間違いなく困難にぶつかることになります。勿論それが研究の醍醐味ではあるんですが、手を尽くしてもうまくいかず、行き詰ってしまう時がきっとあります。そんなときは、目の前の問題とか課題とか作業とかは一度忘れて、ちゃんと食べて、寝て、それから誰かに話してみて下さい。ちゃんと休息して、誰かに一緒に問題を整理してもらえば、どうにもならない問題はそうそう無いです。

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 中村博士といえば、Kinectが日本で販売開始されてからすぐに、iRobot社のルンバを指さしで制御するデモを一緒に作ったことが博士前記課程時の大変良い思い出です。このデモはそれなりに評判になり、iRobot社のニュースとしても取り上げられました。

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 現在、富士ソフト(株)でソフトウェアエンジニアリングに磨きをかけているところだと思います。将来、研究関連で一緒に仕事をする日が来るかもしれない、と中村博士のさらなる成長と活躍を楽しみにしています。

*1:後期課程では船谷研究員(現トヨタ自動車(株)東富士研究所)もよく相談に乗ってくれました

*2:Nakamura, F., Funaya, H., Uezono, N., Nakashima, K., Ishida, Y., Suzuki, T., Wakana, S. and Shibata, T.Low-cost three-dimensional gait analysis system for mice with an infrared depth sensor Neuroscience Research, 100, pp.55-62, 2015

*3:特開2014-59654 動体の3次元運動検出装置及び検出方法