柴田教授のひびきの放送局 (Prof. Shibata's Blog)

九州工業大学大学院生命体工学研究科の柴田智広教授の公式ブログです (Official Blog of Prof. Shibata)

歩行器をうまく使うと、要介護度を維持できる可能性が高くなる

歩行器が使いにくく感じてきて、車椅子も使おうかなあと思っていらっしゃる方もいらっしゃると思います。

また、入居者の転倒が怖いので、なるべく車椅子を使ってほしいと考える介護職の方も多いのではないか、と思います。

 

そのような方々に、ぜひ知っておいてほしい情報があります。
下記、産業技術総合研究所 生活機能ロボティクス研究チームの松本チーム長からいただいた資料の一部で、介護給付費実態調査の二次利用申請を厚生労働省に行い、許可を得た上で、全国規模の介護保険レセプトデータ(約1千万人分)の電子データを入手し、解析した結果です。

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福祉機器未利用者に比べて、歩行器の長期利用者は要介護度が悪化しにくい

上のグラフから同じ要介護度2の人でも、歩行器の長期利用者は、福祉機器未利用者に比べて、要介護度が悪化しにくく、利用期間が長いほど差が広がることが分かります。

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車椅子に比べて、歩行器の長期利用者は要介護度が悪化しにくい

上のグラフから同じ要介護度2の人でも、歩行器の長期利用者は、車椅子利用者に比べて、要介護度が悪化しにくいことが分かります。

 

これまでのグラフは、個人を追跡調査した結果ではありません。2007~2011年度に要介護2(在宅)で歩行器を利用開始し、半年以上利用した全国の高齢者全員を追跡した結果が下記のグラフです。

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歩行器の利用経験がある高齢者は、5年後(60か月後)の入院率が低く(0.76倍)、在宅率が高い(1.29倍)。また、要介護度(開始時に要介護2)を維持できている割合も高い(1.15倍)ことが分かります。

 

以上の結果をまとめると、要介護度2の方が歩行器をうまく使うと、要介護度を維持できる可能性が高くなり、より長く在宅でいられる可能性が高くなる、ということです。

また、車椅子を長期的に使うことは、避けられるならば避けたほうがよさそうです。

歩くって大事、ということが全国約1千万人の大規模データ解析で裏打ちされたということですね。

 

最後に、貴重な解析を行い資料を提供いただいた、松本チーム長をはじめとする、産業技術総合研究所 生活機能ロボティクス研究チームの皆様に感謝申し上げます。

<参考文献>

松本吉央, 本間敬子, 梶谷勇, 金雪瑩, 田宮菜奈子,
"介護保険レセプトを用いた福祉機器の利用状況の分析 -歩行器利用者の分析-",
第25回ロボティクスシンポジア, 2020年3月16日, Covid-19のためオンライン開催