柴田教授のひびきの放送局 (Prof. Shibata's Blog)

九州工業大学大学院生命体工学研究科の柴田智広教授の公式ブログです (Official Blog of Prof. Shibata)

NHK Eテレ「ハートネットTV フクチッチ」の「つなぎ人」コーナーに出演

 2026年6月15日放送のNHK Eテレ「ハートネットTV フクチッチ(福祉機器 後編)」の「つなぎ人」のコーナーで、私の活動を取り上げていただきました。

 私が大切にしている考え方、私が介護ロボット研究を始めた理由、介護現場を頻繁に訪問する理由、介護テクロノジー普及の難しさ、北九州で進んでいる新しい挑戦などを、7~8分の間に、分かりやすく詰め込んでいただいていました。上記リンクから、6月22日午後8時29分まで配信されていますので、是非多くの方に視聴していただければ幸いです。


 ここで少しだけ「つなぎ人」コーナーの内容のフォローアップをします。

 まず世界初の学習型着衣介助ロボットは、骨折して肩の可動域が狭くなり自力で着衣が困難になった母を見て、私が奈良先端科学技術大学院大学の教員時代に、為井先生、松原先生との共同研究で開始したものです。まだ協働ロボットの時代でもなく、用いていたロボットがメカむき出しで安全面の課題もあったことから、一旦研究は中止しました。幸い、九州工業大学に着任時には、現在用いている、当時世界初の協働ロボットを入手し、研究を再開することができました。その後、ロボットの一流国際会議 IROS 2015 でBest Application Paper 賞や、日本ロボット学会から欧文誌論文に対して Excellent Paper Awardを受賞するなど研究成果を出しながら、近年では高齢者や障がい者に対する実証実験にも力を入れています。 

 人工筋を用いた装着型の歩行アシストロボットは、元々は広島大学の栗田先生や、当時産業医科大学の白石先生との共同研究で開発をしました。
Effects of Gait Inducing Assist for Patients with Parkinson’s Disease on Double Support Phase During Gait

 その後、国プロで、産総研、慶応、令和健康科学大、ORPHE社とコンソーシアムを組んで、人工筋歩行アシストロボットやAIロボット化歩行器の開発と社会実装に取り組んでいます(今年度から(株)ピュア・クリオ、(株)dot cure、ダイヤ工業(株)、ローランド(株)も協力機関)。

 現在、柴田研の人工筋歩行アシストロボットはこの事業からスピンアウトして進めています。

人工筋歩行アシストロボット

AIロボット化歩行器の方は、この国プロ事業内で製品化を目指しています。また、このコンソーシアムでは、本プロジェクトの研究開発成果や活発な情報共有を目的としたウェブサイト「ホコラボ」を公開していますので、皆様ぜひ一度見てください。そしてパーキンソン病患者の方やそのご家族はぜひご登録をお願いします。

 最後に改めて、番組をご覧いただいた皆さま、そして日頃から研究活動を支えてくださっている多くの方々、今回の密着取材にご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。引き続き、関係者と共に、より一層、介護ロボット等テクノロジーの開発・実証・普及の活動を加速させていきます!!!

 

柴田研発スタートアップ:

ASEAN-Japan NEXUS Early Career Researchers Conclaveに参加して

先日、シンガポールで開催された「ASEAN-Japan NEXUS Early Career Researchers Conclave」に参加してきました。

このプログラムは、日本とASEAN諸国の若手研究者(Early Career Researchers: ECRs)が集まり、AIを活用した社会課題解決や科学技術研究について議論し、新たな国際共同研究の可能性を探ることを目的としたものです。

今回のConclaveには、日本から11名、ASEAN各国から32名のECRsが参加しました。

イベント終了後の記念写真

私は、基調講演(Keynote Speech)とECR Mastery Classを担当するとともに、Malika氏とともに最終日のチームピッチコンペティションの審査員を務めました。

私の基調講演の様子

印象的だったチームピッチ

参加者は混成チームに分かれ、短期間で研究構想をまとめ上げ、最終日に発表を行いました。どのチームの提案もレベルが高く、限られた時間の中でここまでまとめ上げたことに驚かされました。

ピッチや質疑応答の様子

その中で優勝したのは、日本、ミャンマー、マレーシア、ブルネイ、東ティモール(Timor-Leste)の研究者5名によるチームでした。

彼らが提案したのは、Flash Flood Resilience(突発的洪水へのレジリエンス向上)に関する先進的なフレームワークです。ASEAN地域では洪水が深刻な社会課題となっており、AIや多様なデータ活用を通じて災害への対応力を高めようという提案でした。

優勝チームを称える

NEXUS Conclaveの価値

私はこのConclaveを、JST、A*STAR、そしてASEANの科学技術コミュニティが連携して実施する非常に優れた取り組みだと感じました。参加者は決して十分とは言えない準備期間の中で、国境や専門分野を超えて協力し、具体的な研究アイデアを形にしていました。こうした場から生まれたアイデアのいくつかが、将来的に競争的資金への応募や実際の国際共同研究へ発展していくことを期待しています。

ASEANの多様性を実感

今回特に印象に残ったのは、ASEAN各国の状況が想像以上に多様であることでした。

同じASEANと一括りにしてしまいがちですが、

  • 研究基盤

  • 産業構造

  • 社会課題

  • 人材育成環境

には大きな違いがあります。

一方で、共通する課題も多く存在します。

オンライン会議ではなかなか見えてこないこうした違いや共通点を、実際に対面で議論することで深く理解できたことは大きな収穫でした。

改めて、「Face-to-Face」の交流の重要性を実感しました。

国際共同研究のための情報収集の場としても有益

今回のConclaveでは研究交流だけでなく、参加者は

  • ASEAN

  • MEXT(文部科学省)

  • JST(科学技術振興機構)

  • A*STAR(シンガポール科学技術研究庁)

などが提供する国際共同研究支援制度についても知ることができました。

若手研究者にとって、研究アイデアだけでなく、それを実現するための資金や制度を知ることは非常に重要です。その意味でも、本プログラムは大変有意義な機会だったと思います。

ASEAN-Japan AI連携に関するパネルディスカッション

3日目には、「Advancing ASEAN-Japan AI Partnerships for Regional Impact」をテーマとしたパネルディスカッションにも登壇しました。

パネリストは、

  • シンガポール国立大学(NUS)の Adrian Chong准教授
  • ASEAN事務局 科学技術部門長の Zurina Moktar博士

の3名で、A*STARのSerena Cho氏がモデレーターを務めました。

議論では、

  • なぜ今ASEANと日本のAI連携が重要なのか
  • 今後10年間でAIが貢献できる地域課題とは何か
  • ASEAN域内のAI発展格差をどう乗り越えるか
  • 国際共同研究を継続させるために必要なこと
  • 若手研究者が国際連携を始めるためのアドバイス

などについて意見交換を行いました。

研究者、政策担当者、研究推進機関という異なる立場から議論できたことは非常に有意義でした。技術だけでなく、人材交流や信頼関係の構築こそが、ASEAN-Japan連携を発展させる鍵であることを改めて実感しました。

パネルディスカッションの様子

Site Visitも大きな刺激に

研究機関へのSite Visitも非常に充実していました。A*STRTのARTC, SUTD, NTUの3か所でした。シンガポールがどのように研究成果を社会実装へつなげているのかを直接見ることができ、多くの刺激を受けました。

おわりに

今回のConclaveで生まれた人と人とのつながりが、今後も長く続いていくことを願っています。

そして、そのネットワークから、日本とASEAN地域が共通して抱える課題の解決につながる共同研究やイノベーションが一つでも多く生まれることを期待しています。

関係者の皆様、そして参加したECRの皆さん、本当にお疲れさまでした。

今後の活躍を心から楽しみにしています。

RSJ2026@金沢大学の「介護とロボティクス」OSへの投稿お待ちしてます

今年の日本ロボット学会学術講演会は、金沢大で、9月1日(火)~4日(金)に金沢大学 自然科学本館(金沢市角間町)で開催されます。

そして今年も、日本ロボット学会の研究専門委員会「介護ロボット研究専門委員会」で、「介護とロボティクス」というオーガナイズドセッション(OS)を立てました!

下記のように、毎回多数のご発表をいただき、熱い議論が交わされています。

今年も日本ロボット学会及び協賛学会の会員でなくても発表ができます!ぜひ企業の方やロボットの活用に取り組んでいる介護施設の方もどしどし、ご投稿ください。論文は1~2ぺージでも構いません。
 講演申込締切:2026年6月4日(木)正午まで
 論文投稿締切:2026年7月9日(木)正午まで
 発表言語:日本語または英語
 発表形式:口頭発表一件あたり 15分(発表10分,質疑応答5分)(予定)
成功事例だけでなく失敗事例(私たちはそれを「経験」と呼びます)など、多種多様のご投稿をお待ちしています!

ぜひ発表してみたいのだけれど、学会での発表は不慣れ、という方は、伴走支援も可能ですので、スマートライフケア共創工房までご相談ください(工房のページ最下部のお問い合わせよりご相談ください)。

【在宅介護のヒント】「福祉用具・介護テクノロジー活用ガイドライン」のご紹介

 在宅介護において、ご家族の負担軽減や利用者ご本人の自立支援はとても大切なテーマですよね。最近では便利な介護テクノロジーやスマートホーム製品が増えていますが、「どうやって選べばいいの?」「本当にうちの生活に合うの?」と悩まれる方も多いのではないでしょうか。
 今回は、そんな疑問のヒントになる「 在宅介護の継続を支える福祉用具・介護テクノロジー活用ガイドライン 」を簡単にご紹介します!

 このガイドラインは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員といった介護のプロ向けに作成されたものですが、単なる「便利な機器のカタログ」ではありません。利用者の生活の質と安全を守りながら、介護を無理なく続けるために「どのような視点で考え、導入すべきか」という思考プロセスに焦点を当てているのが最大の特徴です。
ガイドラインが大切にしている「5つの基本方針」
 テクノロジーを導入する際、ガイドラインでは「機器ありき」ではなく、まず「どのような暮らしを支えたいか」を考えることを推奨し、以下の5つを基本方針としています。
  1. 本人・家族の価値観と自己決定を尊重した選択支援
  2. 本人・家族・関係職種の視点の把握 (家族や介護スタッフの負担も考慮する)
  3. 多職種・事業者との協働 (チームとして支える体制をつくる)
  4. 定期的なモニタリングと柔軟な調整 (導入して終わりにしない)
  5. 安全性・プライバシー・倫理的配慮の確保
成功に導く「5つの実践ポイント」
 では、具体的にどう進めればよいのでしょうか?ガイドラインでは、実際の現場で役立つ実践のポイントを以下の5つにまとめています。
  • 課題の見立てを捉え直す: 「介助が大変」だけでなく「どう支えたらご本人ができるか」を考える。
  • 生活習慣や価値観を前提に選ぶ: 「便利な機器」よりも「続けたい暮らしに合うもの」を選ぶ。
  • 段階的に導入し調整する: 一度に生活を変えるのではなく、試しながら無理なく整える。
  • 情報を見える化しアセスメントに活かす: 見守り機器などで「なんとなく心配」を「目に見える状況」にして判断する。
  • 多職種で目的を共有し運用体制を整える: 「機器を入れて終わり」ではなく「誰がどう使うか」まで決めて支える。
期待される効果と豊富な事例集
 これらを実践することで、ご本人の自立支援はもちろん、ご家族の介護負担や不安の軽減、孤立予防、さらには介護スタッフの業務負担軽減といった、複合的な効果が期待できるとされています。
 さらに、ガイドラインの後半には 15の具体的な成功事例 が掲載されています。たとえば、「見守りカメラとスマートスピーカーで遠方の家族の不安が激減したケース」や、「スマートタグなどの段階的な導入で、同居家族が仕事と介護を両立できたケース」など、現場のリアルな工夫や専門職の視点が分かりやすくまとめられています。
 「テクノロジーで生活をどう変えられるか」ではなく、「守りたい生活のためにテクノロジーをどう活かすか」。このガイドラインは、介護に関わるプロだけでなく、在宅介護に取り組むご家族にとっても「こんな解決策があるんだ!」という気づきを与えてくれるはずです。
 ご自宅での介護環境について見直しを考えている方は、ぜひこの視点を参考に、担当のケアマネジャーさんなどと相談してみてはいかがでしょうか。

大学院生命体工学研究科は社会課題・研究・教育を接続するハブ ― 高校生の学会受賞が示すもの

以前、九工大大学院生命体工学研究科と自由ケ丘高校との連係の始まりを紹介しました。

その流れを裏付ける、とても象徴的なことが起きました!

福岡県の自由ケ丘高等学校の生徒たちが、日本水環境学会九州沖縄支部の研究発表会において、高校生部門で優秀発表賞をダブル受賞したそうです。

 

発表内容を見ると、

  • 生分解性プラスチックの開発と強度・分解評価
  • 紫外線・太陽光を用いた水処理・殺菌技術の検証

といったテーマであり、いずれも環境・エネルギー・水処理という社会課題に直結した研究です。

 昨年度の自由ケ丘高校スーパー特進コースの探究授業では、生命体工学研究科の複数の研究室を見てもらいました。そして前田憲成教授は模擬授業を通して、多くのアドバイスをしてくださり、それが今回の発表や受賞につながったとのことです。なお、今年度は、夏目教授宮崎教授中村准教授も自由ケ丘高校スーパー特進コースの探究授業に資料や指導を行ったとのことです。

 

大学の役割は知識を教える場だけではなく、社会課題・研究・教育を接続するハブでもあります。高校生が持つ「問い」を検証可能な形に変換し社会的意味を持つ研究へと接続することを支援してあげ、学会発表の場を用意してあげることが大事なんですね。


今後も、広域学研都市(私が勝手に言ってます)で「研究教育エコシステム」を育んでいけるといいな、と思っています。

 

 

 

世界が驚く「日本の検証文化」― ASHRAE最優秀賞に輝いた鹿島建設『The GEAR』の快挙

先日、JST NEXUS事業(日-星共同、テーマはAI)に採択された東大の宮田先生NUSのChong先生らの国際共同グループが東大(本郷)で開催したワークショップに、Program Officerとして参加しました。

工学部1号館前で記念写真

ワークショップの様子

AIやデジタルツインを用いた次世代の空調制御について熱い議論が交わされる中、非常に誇らしいニュースを耳にしました。それは、鹿島建設のアジア地域統括拠点「The GEARが、建築設備分野で世界最高峰の権威を持つASHRAE Technology Awards 2026において、世界最優秀賞(First Place)を受賞したというものです

www.kajima.co.jp

■ ASHRAEに刻まれた「Japan Session」という信頼

世界最大級の学会であるASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)において、日本は極めて特別な存在です。実は、国際大会のプログラムの中に、日本のためだけに「Japan Session」という専用の枠が継続的に設けられているのだそうです!

これは、日本の建築設備技術が単に「新しい」だけでなく、極めて「高品質で信頼できる」と世界から認められている証です。

■ 「設計して終わり」にしない

今回の受賞において、「The GEAR」が評価された最大のポイントは、その圧倒的な「運用データ」にあります。

 

  • 熱帯において半屋外空間をオフィスとして用いるというチャレンジの有効性を、温熱快適性の実現と省エネルギーという観点からデータで証明。
    • 建物内に8,000以上のセンサーを配置し、あらゆるデータを収集

    • IoTプラットフォームを活用し、竣工後も継続的にモニタリングと運用の最適化を実施

    • その結果、基準建物比で45%という大幅なエネルギー削減を、実証データとして証明

       

■ 日本が誇る「検証の文化」:実測こそが真実

ASHRAE Technology Awardsの審査は、建築業界で「最も厳しい」とも言われます。なぜなら、設計図上の計算値ではなく、「竣工後1年間の実際の稼働データ」の提出が求められるからです。

「計算上は省エネです」と言うのは簡単ですが、実際に運用してその数値を出すのは至難の業です。ここにおいて、日本のエンジニアが得意とする「緻密なチューニング(調整)」と、現場での実測を重んじる「検証の文化」が、世界一という形で見事に結実しました。

■ 未来のリビングラボとして

「The GEAR」は現在、研究成果を即座に建物に実装する「リビングラボ」として機能しています 。今回の東大ワークショップで議論されたようなCFDや強化学習による最新制御も、こうした場所で磨かれ、やがて世界中の建築をより良くしていくのでしょう。

 

日本が培ってきた「造る技術」と「使いこなす技術」。その両輪が世界をリードしていることを改めて実感し、日本人として、大きな勇気をもらうことができました。

CIRP Design 2026で基調講演を行いました

2026年3月、東京で開催された「CIRP Design 2026(第36回CIRP Design Conference)」において、基調講演を行う機会をいただきました。

CIRP(The International Academy for Production Engineering)は、1951年に設立された生産工学分野の国際的な学術組織であり、設計・製造・プロセス・システムに関する世界最先端の研究者・技術者が集う国際ネットワークです。
そのCIRPが主催・後援するDesign Conferenceは、設計工学に関する理論・方法論・実装を議論する国際会議として、世界中の研究者・実務者が集う場となっています。

今回の講演では「Designing with Care」というテーマのもと、ケアを単なる応用分野ではなく、設計そのものを方向付ける原理として捉え直す必要性を提案しました。また、共創(co-creation)を社会実装のための設計方法論として位置づけ、日本における実践例を紹介しました。

講演後には多くの質問や議論が寄せられ、特に製造分野の研究者から、「ケアの視点が製造や設計の新しい方向性を示している」というコメントをいただいたことが印象的でした。

技術を設計することには長けてきた私たちですが、
「人とともに設計すること」、そして「社会の中で機能する設計」をどう実現するかは、これからの重要な課題です。

今回の議論を通じて、ケアを起点とした設計が、特定分野にとどまらず、工学全体に新たな視点をもたらす可能性を強く実感しました。

最後に、お声がけいただいた産総研の渡辺博士や、実行委員長の高本先生に心より御礼申し上げます。