柴田教授のひびきの放送局 (Prof. Shibata's Blog)

九州工業大学大学院生命体工学研究科の柴田智広教授の公式ブログです (Official Blog of Prof. Shibata)

セラピーロボット「パロ」の効果

 先日、介護ロボット研究専門委員会で、産総研上席主任研究員の柴田崇徳さんを招いて、セラピーロボット「パロ」の社会実装について詳細にご説明いただきました。柴田さんの社会実装の活動は30年に及び、海外では30か国で活用されており、EU、イギリス、オーストラリア、シンガポール、香港、アメリカでバイオフィードバック医療機器として承認、がん、認知症脳損傷PTSDパーキンソン病などの患者が、痛み、不安、抑うつ、焦燥、不眠などと診断された場合に、バイオフィードバック療法として処方されているそうです。

 医療機器として承認されるぐらいですから、パロの医学的効果は後述のように強力に証明されてきています。また、講演中に、患者さんがパロを抱っこすることで一瞬にして表情が和らいだり、周辺症状などが収まる様子の動画をたくさん見せていただきました。私も実際抱っこしましたが、本当に可愛かったです。

 介護施設においても認知症患者の周辺症状の抑制や、がん患者の緩和ケアなどに、パロは大変効果的なのではないか、と思いました。また、私自身が抱っこしても大変にいとおしいと感じましたので、介護職の方や看護師の方々のストレス軽減をする可能性も十分あると思います(そのようなアンケート結果はパロだけなくaiboやLOVOTを用いた実証実験でも得られています)。介護者・被介護者双方のQOL向上のために、ぜひ介護ロボット導入補助金を活用して、パロを導入されると良いのではないでしょうか。

 

 さて、ここからパロの医学的効果検証結果について簡単にご紹介します。

 柴田さんによれば、「アニマル・セラピー」は、長年、様々な効果が報告されてきて、人々から認知されていましたが、セラピー効果の「エビデンス」は無かったのだそうです。そして、パロを用いたロボット・セラピーのランダム化比較試験(RCT)で、世界で初めてアニマル・セラピー(パロを含めて)の効果のエビデンスが示されたということが権威あるThe Lancet Neurologyで2013年に詳細に紹介されています。

 その後、オーストラリアの国家プロジェクトとして、415名を対象とした大規模なクラスターRCTが行われ、パロのセラピー効果のエビデンスが示されたそうです。この治験では、セラピスト等の人の介入による効果を排除して、パロと被験者の1体1だけでの効果が厳密に検証されたそうです。この結果等を踏まえて、オーストラリアでは、在宅介護の要介護者がパロを希望するとパロの購入費用の最大全額を助成してもらえるようになったそうです。

 フランスでは認知症の進行を遅らせることを目的とする4種の抗認知症薬について、2018年に「効果が見られず、副作用が問題」として、保険償還を中止し、その代わりに、認知症のケアを重点化するために、高齢者向け施設等がパロを導入する費用(購入・研修等)を地域政府が全額助成するようになり、パロの導入が進んでいるとのことです。

 イギリスでは、国立医療技術評価機構による「NICEガイドライン」において、「認知症」の「非薬物療法」の中で、パロが、唯一、「質が高いエビデンスがある療法」として掲載されています。そのため、イギリス国営サービス(National Health Service: NHS)の病院等では、認知症ケア・ユニット等において、認知症者が心理・行動症状(周辺症状)がある場合に、薬物療法として、最初のステップではパロを用いて治療し、効果が無い場合には、次のステップとして向精神薬を投薬しても良い、という2段階のステップの最初にパロが用いられているそうです。

 アメリではクラス2のバイオフィードバック医療機器だそうで、徐々に、公的医療保健適用や、連邦政府のファンドでの全額導入助成等に繋がってきているのだそうです。

 

以上、医学的にエビデンスがあり、たくさんの国で医療機器認定されているセラピーロボット「パロ」をご紹介しました。その他、医学的エビデンスはまだありませんが、コミュニケーションロボットはいろいろと販売されています。例えば、介護現場で活用されるテクノロジー便覧をご覧ください。