柴田教授のひびきの放送局 (Prof. Shibata's Blog)

九州工業大学大学院生命体工学研究科の柴田智広教授の公式ブログです (Official Blog of Prof. Shibata)

9月3日はRSJ2025で介護とロボティクスOSを開催します!

今年で4年目となる、日本ロボット学会学術講演会でで介護ロボット研究専門委員会がオーガナイズしている「介護とロボティクスOS」今年は RSJ2025 にて、9月3日に開催します!

プログラムは下記のようです。

介護とロボティクスOSのプログラム詳細

今年は、開発企業が主著の発表がなかいのは残念ですが、「厚生労働省による介護テクノロジー開発支援の取り組みと題して、NTTデータ経営研究所から発表があります。

それでは皆様、来週大岡山でお会いしましょう! 技術の話、社会実装の話を皆さまと意見交換できることを心待ちにしています!

 

2024 IEEE Social Impact Report(社会的インパクト報告書)

IEEE Social Impact Reportのご紹介というメールが来たので、AIで粗く要約してみました。こんなにいろいろ活動してるとは知りませんでした。

IEEEは、技術の力で人類の利益を高めることを使命とし、教育・協働を通じて社会課題の解決に取り組む公益団体です。本レポートは、IEEEの社会的貢献活動を初めて年次報告書としてまとめたものです。


🔧 テクノロジーを通じた人道支援

  • IEEE Humanitarian Technologiesプログラムにより、世界中でボランティアが持続可能な開発活動を展開。

  • 例:Tech4Goodは15か国で77件のプロジェクトを実施、16.5万人が恩恵を受けた(p.6)。

  • IEEE Smart Villageは190以上のプロジェクトを実施し、2百万人以上に恩恵をもたらした(p.7)。

  • 災害支援では、IEEE MOVEが米国各地で支援を展開(p.8)。


🎓 教育支援を通じたエンパワーメント

  • EPICS in IEEE:大学生が地域社会と連携し課題解決プロジェクトを実施(39か国、1,400人以上のボランティア、p.10)。

  • iCAREプログラム(マレーシア):150人以上の高校生がSTEM分野の実践的学習に参加(p.11)。

  • 公共図書館へのSTEMキット提供で地方・子どもへの科学啓発も推進(p.11)。


🧭 技術倫理のリーダーシップ

  • AIの信頼性評価指標「IEEE CertifAIEd」規格を策定(p.13)。

  • 子どもに配慮したAge-Appropriate Designの国際的な設計基準づくりに貢献(p.13)。


🧩 標準化を通じたイノベーション促進

  • インターネット未接続地域(インドなど200村)への接続支援(p.15)。

  • AI、医療、環境に関する標準を普及させる「GET Program」(p.15)。

  • サステナビリティ・ハブで環境配慮型標準規格を紹介(例:AI透明性評価ガイド、p.15)。


🏛 公共政策への影響力

  • IEEE会員がCHIPS法など技術政策に影響を与えるロビー活動を展開(p.16)。

  • 32州から160人が米国議会訪問に参加し、前年から参加者50%増(p.17)。


📚 オープンサイエンスの推進

  • IEEEはオープンアクセス・ジャーナルを強化し、発展途上国の研究者も無償で投稿可能に(p.17)。

  • 学術出版のインフラ整備を支援(研究倫理・透明性の向上、p.17)。


🌱 環境の持続可能性の推進

  • 2050年までのネットゼロ達成ロードマップを公開(エネルギー・グリッド・AI連携など、p.19)。

  • 国際レジリエンス構築会議で気候変動対応を議論(p.19)。

  • IEEE会員による環境保護プロジェクトやイベントを支援(p.19)。



九工大若松キャンパスで「ヘルスケア・プロフェッショナル交流会」を開催

2025年7月1日に若松キャンパスで、本学および九州ヘルスケア産業推進協議会(HAMIQ)主催の「ヘルスケアプロフェッショナル交流会」が開催されました。HAMIQは昨年末から九州ヘルスケアスタートアップラボ(KSLab)を開始しており、私や井上創造先生もコーディネーターを務めています。今回は、九工大若松キャンパスで介護福祉の研究やスタートアップに取り組む学生達が、介護福祉機器の開発や販売の実績がある方々の経験や方法を深く学び、また経産省、HAMIQ、九工大のスタートアップ支援メニューを知る大変貴重な機会が提供されました。

  • HAMIQ石橋様によるKSLabの紹介

第一部の様子

第一部では、ヘルスケア分野に対する最新基本情報の提供がなされました。

  • 九州経済産業局 地域経済部 製造産業課 ヘルスケア・バイオ産業室 ヘルスケア産業 係長 有馬詩織様:医療介護分野に対する経済産業省の支援内容の紹介

    九経局 有馬様による医療介護分野に対する経産省の支援内容の紹介
  • HAMIQ 石橋様:ヘルスケアスタートアップ支援事業「KSLab」の紹介とヘルスケア企業での開発から販売の経験談
  • 合同会社 KT福祉環境研究所 所長 松尾清美先生(佐賀大学教育研究院 医学域医学系 准教授):ヘルスケア機器開発の基本 

    松尾先生のご講演では、福祉機器開発と障害者支援に関する実践的な知見が紹介されました。21歳で脊髄損傷により四肢麻痺となったご本人が、以降48年間にわたり1万人以上を支援しながら開発者として歩んできた経験に基づき、福祉と工学の橋渡しの重要性が語られました。

    講演では「障害者を上から目線で見てはいけない」という強いメッセージと共に、「使用者と同じ目線で、生活に根ざしたものづくりを」という開発哲学が強調されました。また、松尾先生は自らの移動や排泄支援の経験をもとに、車椅子の補助輪や排尿支援装置などの事例も紹介。福祉機器は生活環境・家族・制度と密接に関係しており、「技術・制度・使用者」の三者が連携して初めて実用化が進むと説かれました。

    KT福祉環境研究所所長 松尾先生のご講演の様子
  • 九州工業大学 社会実装本部 未来思考実証センター スタートアップ推進部門 起業戦略URA 吉本 大祐様:九工大におけるスタートアップ支援等について

    九工大起業戦略URAの吉本氏によるスタートアップ支援の紹介

第二部 プロフェッショナルの方々と参加学生達との交流会が開催され、午前中の話のQ&Aや今行っていることへのアドバイス等が活発になされました。

第二部の様子

第1回車椅子テニス競技大会チャンピオンでもある松尾先生は、本日も自力で佐賀県から学研都市まで移動してこられたそうで、その精神力・体力に驚嘆しました。さらに当事者工学研究者の草分けとして、長年にわたり多数の障がい者を支援してこられた情熱と知見で、参加学生に大きなパワーを与えていただきました。きっと若松キャンパスから社会実装や起業の事例が増えていくものと強く期待しています。

最後に、今回の交流会を企画してくださった石橋様を始めとするHAMIQの方々、ご講演賜った松尾先生、そして九経局の皆様に、心より御礼申し上げます。

最後に松尾先生を囲んで記念撮影

 

北九州と東京の移動は無駄時間が少ない

長年国内外を飛び回っているので、いつでもどこでも仕事ができる体制を整えています。

国内ではやはり東京出張の機会が多い。以前からブログ記事に書いているように、北九州学研都市から東京出張するなら北九州空港がベストです。

今年3月末から、北九州学研都市から北九州空港へ行くバスは早朝の往路以外なくなってしまいました。マイカーで移動すれば、黒崎バイパス+北九州高速道+東九州自動車道を使うと、ほぼ下道を使うことなく空港へ到達できます。EyeSightなどオートクルーズ機能を使えば、認知負荷が少なく、50分以内に空港へ到着できます。駐車料金は700円/日と安価です。

この運転時間をどう使うのか。私はよくリラックスする時間にしています。空港についたら搭乗時刻まで集中して仕事。フライト中、発着中はリラックスするために用い、それ以外は集中して仕事をするように心がけています。

しかし今回は頭脳がしっかり働いている状態で空港まで運転することになりました。そこで、はたと思い出したのが、NotebookLMの会話生成機能。概略を聞きたい論文2本の会話(解説)を運転開始前に生成しておき、運転中に聞くことができ、有意義な運転時間を過ごすことができました。

羽田空港からはリムジンバスがたくさん出ています。用務先がリムジンの停車駅に近い場合はなるべくリムジンを使い、乗車中の時間を仕事に活用しています。

※ちなにに、高速代、空港駐車場代、リムジン代は研究費から出すことはできないので自腹です。安全、移動効率、そして集中できる時間を自腹で買っています。

ケアする生活環境

"ケアする生活環境”とは、単に介護設備を整えるということではありません。心理的な安心感、日々の暮らしやすさ、そして他者とのつながりといった、広い意味での“支える力”が、生活空間に組み込まれている状態だと思います。

ケアする生活環境とは

北九州においては、社会福祉法人もやい聖友会が運営する銀杏庵 穴生俱楽部が特筆すべき共生型地域拠点になっています。夕方や休日はいつも小学生が一階で遊んでいます。カフェレストランがあり誰もが利用できます。FMスタジオコミュニティFMラジオ「Air Station Hibiki FM88.2MHz」のサテライトスタジオ)があり、数々の番組の中には、認知症患者当事者がパーソナリティを務めることもある。数十の出店があるマルシェも毎月開催。その他落語など様々なイベントが開催されています。また、プロフットサルチームのボルクバレット北九州の選手も数名雇用していて、レクリエーションなどに活躍。0〜3歳の赤ちゃんを赤ちゃん職員として採用し、赤ちゃんと入居者さんが交流する。最近ではノンバーバルコミュニケーションロボットとして有名なLOVOTも導入しています。九工大有給インターンシップ先にもなり、柴田研の学生がインターンシップに行っています。

九工大有給インターンシップ活動事例

このように、ハードとしての空間設計だけでなく、地域住民の参加によるソフト面の運営が、ケアを“地域の文化”として根付かせるポイントになります。

 

そして、私が運営代表を務める九工大スマートライフケア共創工房も、単に技術開発をするのではなく、連携・共創するコミュニティを増やしながら、ロボットなどテクノロジーも援用したケア社会の創造に取り組んでいます。

スマートライフケア共創工房は、様々な地域コミュニティと連携や共創を進めていますが、ここではお隣である高須地区の社会福祉協議会との連携の様子を簡単に紹介します。私の寄稿が社協だよりに掲載されたので、許可を得て転載します。

たかす社協だより第23号(春・夏編)より抜粋

なお第23号の社協だより全文をスキャンした画像を許可を得て掲載します。大変活発に活動されておられます。

社協だより p.1-2

社協だより p.3-4

他にも紹介したいコミュニティはいろいろありますが、またいずれ。

 

 

公開シンポジウム「ケア・イノベーションの最前動向」

主催:日本学術会議健康・生活科学委員会・臨床医学委員会合同共生社会に向けたケアサイエンス分科会、臨床医学委員会・健康・生活科学委員会合同老化分科会、健康・生活科学委員会高齢者の健康・生活分科会、健康・生活科学委員会ヘルスケア人材共創に向けた看護学分科会
共催:一般社団法人日本看護系学会協議会

の、オンライン公開シンポジウム「第2回「ケア・イノベーションの最前動向」にお招きいただき、「ケアする生活環境をつくるアプローチ」という演題で講演を行い、また講演者全員による議論にも参加しました。

熊谷先生のご講演は大変情報量が多かったですが、特に依存先を分散させる必要性や、コミュニティ参加型研究(CBPR: Community-Based Participatory Research)の重要性を再認識させていただきました。

荒井先生は、フレイル・ロコモ予防に関する圧倒的な実証実験結果をご紹介いただきました。

山川先生は、個の尊重と誰もとりこぼさない循環社会創造について議論をされました。

コンスタンティー二先生は、ケアリテラシーの必要性や、過剰なケアの危険性を教えていただきました。

川口先生は、在宅看護の地域間、個人間格差の問題、またケア労働の社会的評価の低さという問題をご指摘されました。

五十嵐先生は、高齢者・認知症にやさしいまちづくりの事例や、身近な他者への関心を持ち、自分も相手もケアする意識醸成のプログラムをご紹介いただきました。

私はまず、スマートライフケア共創工房や厚労省経産省の活動をごく簡単に紹介しました。そして、ケアには、身体・認知機能支援だけでなく、感情の支援や、社会的つながりの支援が必要であること、それらのためにどのような介護ロボット等テクノロジーが既に存在するか、今後暮らしの中にケア(+テック)が当たり前に溶け込む社会をどう実現すれば良いか、ということをお話しました。

私自身、大変勉強になるシンポジウムでした。お声がけいただいた熊谷先生や、講師の先生方に御礼申し上げます。今後とも、コミュニティを強化・拡大しながら、ケア・イノベーションを着実に進めていきたいと思います。

 

INNOVCARE Projectのワークショップに登壇

2025年6月20日上智大学で開催されたワークショップ「Addressing the Aging Challenge in Europe and Japan – Insights from the INNOVCARE Project」にて、登壇の機会をいただきました。

画像

INNOVCAREプロジェクトは、「高齢者ケアにおけるケア主導型イノベーション」をテーマに、フランスと日本を比較対象とした5年間の大規模研究プロジェクトであり、「PPR Autonomie(優先研究プログラム:自立・高齢化・障害)」の公的資金を受けて実施されています。PPR Autonomieは、フランス政府(CNRS主導)による国家規模の研究プログラムであり、高齢者や障害者の自立支援に関する学際的研究を推進することを目的としています。INNOVCAREはPPR Autonomieの「チャレンジ4(革新的機器や実験の設計・受容・利用の研究)」に該当するプロジェクトとして選定されました。

テクノロジーは高齢者の自立を支援する一方で、使いにくさや設計と実際のニーズの乖離、倫理的課題といった限界も指摘されています。INNOVCAREは、こうした課題を克服し、社会的・個人的ニーズとテクノロジーの貢献をより良く統合することを目的としています。

本ワークショップは、超高齢社会という共通課題に向き合う日本とヨーロッパの研究者・実務家が集い、技術・ケア・制度に関する多角的な議論を行う場です。私は午「Technology and care-led innovation for eldercare」にて、“Technology and Co-Creation for the Well-Being of Older Adults in Japan” というテーマで講演を行いました。

14:05 – 15:30 “Technology and care-led innovation for eldercare"
Katsunori Shimohara (Doshisha University): “Deconstructing Relationality-Oriented Systems from Care-led Perspective”
Shuang Gai (Doshisha University): “Design and Analysis of an Incentive System Centered on ‘Care’ "
Takamasa Iio (Doshisha University): "Robot-mediated care circulation: Fostering loose interdependence between humans and robots"
Tom Shibata (Kyushu Institute of Technology): “Technology and Co-Creation for the Well-Being of Older Adults in Japan”
15:45 - 17:15 “Disabilities and ageing, multidisciplinary and comparative approaches”
Hitomi Nagano (Sophia University): “Dementia in Society and the Role of Social Security Law”
Brieuc Monfort (Sophia University): “The Geography of Aging and Long-Term Care Research”
Toshiyuki Ojima (Hamamatsu University School of Medicine): “Initiatives and Data for Long-Term Care Prevention in Japan”
17:20 – 19:00 Keynote speech
Introduction: Miki Sugimura (president, Sophia University); Didier Marty-Dessus (Scientific counsellor, French Embassy).
Guest speaker: Sébastien Lechevalier (EHESS & DIJ): “Care-led innovation, a new paradigm and an application in the Japanese context of ageing Society 5.0”
Discussants: Kaori Karasawa (The University of Tokyo) & Tadashi Kobayashi (Osaka University & JST)

非公開の午前中のセッションから、盛んな議論があり、午後のセッションでも活発に質疑応答がなされました。私の出番は4人目だったので、それまでの質疑応答を元に、スライドを少し適応させました。タイトルから次のように修正しました。
“Technology and Co-Creation for the Well-Being of Older Adults and Carers in Japan”
そして、日本の深刻な少子高齢化を背景に、介護現場における課題(介護者負担の増大、本人の自律性の喪失、心理的ウェルビーイングの低下)を提示した上で、ロボット技術やAIを用いた支援の社会実装について紹介しました。

特に以下の点にフォーカスしました:

 - 介護支援ロボットの開発・導入を日本政府が後押ししている制度的背景

 - 実際に福祉施設で活用されている移乗支援・歩行支援・見守りAI・コミュニケーションロボット等の具体例

 - 九州工業大学における共創型リビングラボでの実証実験と、当事者・学生・行政・企業との連携による地域共生社会づくり

17:20からのセッションでは、まず上智大学学長の挨拶がありました、続いて在日フランス大使館 科学技術参事官のDidier MARTY-DESSUS氏の挨拶がありました。MARTY-DESSUS氏は、フランス・ロレーヌ大学との国際交流20周年記念行事にも来ていただいた方でした。またお会いできて嬉しかったです。

今回のワークショップは、単なる情報共有の場ではなく、「どうすれば社会に実装できるか」という問いを共に考える貴重な機会でした。講演後のディスカッションやネットワーキングでは、日欧の研究者と具体的な共同研究の話も進み、とても有意義な時間となりました。今後も、テクノロジーが一人ひとりの暮らしを支え、共につくる社会に貢献できるよう、INNOVCAREとも連携しながら、研究と実践を続けていきたいと思います。